データ消去・HDD破壊の基準 — NIST SP 800-88と公的ガイドライン
NIST SP 800-88が示すClear・Purge・Destroyの3分類と、公的なガイドラインが求める処理・証跡の考え方を整理します。媒体別の方式の選び方は本文の表をご覧ください。
このページの要点
- 3分類NIST SP 800-88は処理の水準をClear・Purge・Destroyに整理
- 当社専用機による物理破壊はDestroy(物理的な破壊)に相当する水準
- 証跡公的なガイドラインは処理の妥当性と記録の両方を重視
- 一次情報規格・ガイドラインは改訂されるため発行元での確認を推奨
公的機関や企業の情報システム部門では、HDDの処分やデータ消去の妥当性を確認する際に、総務省が公表しているガイドラインや、米国NIST(米国国立標準技術研究所)のSP 800-88といった公的な文書が参照されることがあります。このページは、それらの文書が示している考え方を整理し、当社が受託する物理破壊がどの水準に位置づけられるのかを説明する「規格の見取り図」です。
なお、規格やガイドラインは改訂されます。本ページは概念の整理を目的としており、版数・改定年・条文の具体的な要求事項については、必ず発行元の一次情報でご確認ください(一次情報の確認先)。
参照される公的な文書総務省・NIST
実務でよく参照されるのは、次の2系統です。ひとつは総務省が公表している情報セキュリティ関連のガイドラインで、行政機関・地方公共団体の情報資産の取り扱いについての考え方を示すもの。もうひとつはNISTのSP 800-88で、記憶媒体のサニタイズ(データを復元できない状態にする処理)の水準を整理した文書です。
いずれも「媒体の種類とリスクに応じて適切な処理方法を選ぶこと」と「処理したことを後から確認できる状態にしておくこと」を重視している点で共通しています。逆に言えば、どちらも特定の1つの方式だけを唯一の正解として指定しているわけではありません。
このページの記載範囲について
規格名・ガイドライン名は本文中で概念として扱っています。版数(Rev.)や改定年、条文番号の断定的な引用は行っていません。稟議・仕様書に引用される場合は、必ず発行元の一次情報で最新の記載をご確認ください。
NIST SP 800-88 の3分類(Clear・Purge・Destroy)と当社の処理の位置づけ
NIST SP 800-88は、記憶媒体のサニタイズについて、処理の水準をClear・Purge・Destroyの3つに整理しています。
Clear — 論理的な上書き消去
媒体が備える標準的な読み書き機能を使い、記録領域に別のデータを上書きして、通常の手段では読み出せない状態にする水準です。媒体そのものは壊れないため機器を再利用できますが、媒体が正常に動作していることが前提になります。故障して認識しないHDDや、書き込みが届かない領域が残る媒体では、この水準を満たせない場合があります。仕組みと限界はデータ消去ソフトの解説およびデータ消去ソフトの限界で扱っています。
Purge — 磁気消去や暗号化消去を含む水準
より高い水準として位置づけられるのがPurgeです。強い磁界をかけて磁気記録の並びを乱すデガウス(磁気消去)や、あらかじめ暗号化された媒体の鍵を破棄する暗号化消去(Cryptographic Erase)などが、この考え方に含まれます。ただしデガウスは磁気で記録する媒体に限られ、フラッシュメモリを使うSSDやUSBメモリには効果がありません。暗号化消去は、鍵の管理履歴を証跡として示せるかどうかが実務上の論点になります。
Destroy — 物理破壊・裁断・溶解(当社の物理破壊が該当する水準)
媒体そのものを物理的に壊し、読み書き機能を使った復元も、装置を分解しての復元も想定しない水準です。穿孔・せん断・破断・裁断・溶解などが含まれます。当社が作業として受託しているのは、専用機による穿孔・せん断・破断(=この水準に相当する物理破壊)です。媒体は再利用できなくなりますが、故障して動作しない媒体にも実施でき、壊れた媒体という「物」と作業写真が記録として残るという特徴があります。詳しくはHDDの物理破壊(穿孔・せん断)をご覧ください。
媒体とリスクに応じた方式の選び方(マトリクス表)
どの水準を選ぶかは、「その機器を再利用するのか」と「どの程度の証跡を求められているのか」で決まります。媒体別に整理すると次のようになります。
| 媒体 | 再利用する場合 | 再利用しない場合 | より高い証跡が必要な場合 |
|---|---|---|---|
| HDD(内蔵・外付け) | 上書き消去(Clear)。媒体が正常に動作することが前提 | 物理破壊(Destroy) | 物理破壊+媒体ごとの証明書。立会い・作業写真を併用 |
| SSD・M.2・NVMe | コマンドによる消去や暗号化消去(Purge)。上書き消去は消え残りが起こり得る | 物理破壊(Destroy) | 物理破壊+媒体ごとの証明書 |
| 磁気テープ(LTO・DAT) | 上書き、または磁気消去(Purge) | 物理破壊・裁断(Destroy) | 破壊+媒体ごとの証明書 |
| USBメモリ・SDカード | 暗号化消去(Purge)。上書きは予備領域に残る可能性がある | 物理破壊(Destroy) | 物理破壊+証明書(点数が多い場合は一覧形式) |
| スマホ・タブレット | 端末の初期化と暗号鍵の破棄(暗号化消去) | 物理破壊(Destroy) | 物理破壊+証明書 |
| 光学メディア(CD・DVD・BD) | 追記型は書き換えができず、上書き消去という手段が取れない | 裁断・破砕(Destroy) | 裁断+証明書 |
この表は、NIST SP 800-88の3分類に当てはめた一般的な整理です。当社が作業として受託するのはDestroyに相当する物理破壊(およびCD・DVD・BDの裁断)で、データ消去ソフトによる上書き消去やデガウスの作業受託は行っていません(当サイトの該当ページは方式の解説記事です)。方式ごとの比較は方式の比較、媒体ごとの対応は対応媒体一覧をご覧ください。
データサニタイズの考え方 — 消去・抹消・破壊の関係
ここでは、規格の側から見たときに「どの文書がどの語をどう扱っているか」だけを整理します。用語そのものの定義と方式の関係はデータサニタイズとは(消去・抹消・破壊の関係)で解説していますので、あわせてご覧ください。
規格が使う語と、日本語の商習慣で使う語のずれ
NIST SP 800-88は「サニタイズ(sanitization)」を上位概念として置き、その下にClear・Purge・Destroyという水準を並べます。つまり規格が分類しているのは「処理の名前」ではなく「どこまで読み出せない状態にしたか」です。一方、日本語の商習慣では「データ消去」「データ抹消」「物理破壊」といった手段の名前で区別することが多く、この違いが見積書や仕様書の読み違いを生みます。
公的なガイドラインは水準を指定し、方式は限定しないことが多い
総務省が公表しているガイドラインの記述も、多くは「復元できない状態にすること」「その処理を確認・記録すること」という達成すべき状態を示す書き方です。特定の製品や特定の方式を1つだけ指定する形にはなっていないため、「どの方式なら要件を満たすか」は、排出する側が媒体と再利用の有無に応じて判断する必要があります。判断に必要な材料を揃えるのが、上のマトリクス表と証明書の役割です。
公的なガイドラインが求める処理と証跡
これらの文書に共通しているのは、処理を行うだけでは足りず、どの方法で・いつ・どの媒体に対して処理したかを記録し、後から確認できる状態にしておくことを重視している点です。処理方法の妥当性と、それを裏づける記録の両方が求められると考えてよいでしょう。
地方公共団体の情報セキュリティポリシーに関するガイドライン
総務省が公表している「地方公共団体の情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」では、情報資産を含む機器や記録媒体を廃棄・返却する際に、記録された情報を復元できない状態にすること、およびその処理を確認して記録に残すことの重要性が示されています。
この考え方が実務で強く意識されるようになった背景として、公的機関が委託した廃棄業者による記録媒体の転売事案が報じられ、廃棄時の確認手順が見直される契機となった経緯があります。以降、「委託先に任せきりにせず、排出した側が処理の完了を確認できる状態にしておく」という運用が広く求められるようになりました。官公庁・自治体案件で求められる要件は官公庁・自治体のHDD破壊で整理しています。
求められる「第三者による確認」と証明書の役割
排出した側が自ら「消しました」と述べるだけでは、処理を確認したことの裏づけになりません。そこで実務では、作業を行った側が媒体1台ごとの記録を書面で発行し、必要に応じて立会いや作業写真によって処理の実施を確認する、という形が取られます。
当社では、破壊した媒体1台ごとに記憶装置物理破壊完了証明書(一般に「データ消去証明書」と呼ばれる書類に相当します)を発行し、シリアル番号・破壊方式・実施日時を記載しています。作業の可視化が必要な場合は立会い・作業動画/写真を組み合わせられます。第三者機関による証明制度そのものについてはADEC第三者証明とはで解説しています(当社の対応状況はお問い合わせください)。
当社の処理と記録の残し方Destroy水準の物理破壊
当社が受託する作業は、専用機による物理破壊(穿孔・せん断・破断)と、記憶媒体の有無確認作業です。記録面または記録チップそのものを壊すため、上書き消去のように「消し残り」が起こる余地がなく、故障して認識しない媒体にも同じ処理を実施できます。
記録として残すもの
媒体ごとにシリアル番号・処理方式・実施日時を記録し、証明書として書面化します。写真付きの証明書は1台につき1枚(¥550/枚・税込)、一覧形式の証明書は最大20台までを1枚(¥2,200/枚・税込)で発行しています。
行っていない処理を明確にする
データ消去ソフトによる上書き消去、デガウス(磁気消去)、HDDの大量裁断・溶解については、作業としての受託は行っていません。また産業廃棄物収集運搬業の許可を有していないため、マニフェストの交付も行いません。破壊後の機器・媒体は古物商許可(東京都公安委員会 第305590806398号)に基づき1点 ¥11(税込・税抜¥10)で買取し、作業費から控除する形で対応しています。制度の基礎は産業廃棄物管理票(マニフェスト)の基礎と当社の買取対応をご覧ください。
証明書との関係 — 基準への説明責任をどう果たすか
作業記録は記憶装置物理破壊完了証明書として書面化し、ガイドラインが求める「処理の確認」を社内外に説明する際の資料としてご活用いただけます。ISMS・プライバシーマークの内部監査や入札の仕様書要件への提出についてはISMS・Pマーク対応で扱っています。記載項目に指定がある場合は、作業前にご相談ください。
一次情報の確認先(公的機関・標準化機関)
本ページの記載は概念の整理であり、規格・法令の条文そのものではありません。稟議書・仕様書に引用される場合は、以下の発行元で最新の記載をご確認ください。リンクは各組織の公式サイトです。
- 総務省(公式サイト) — 地方公共団体の情報セキュリティポリシーに関するガイドライン等の公表元
- NIST/米国国立標準技術研究所(公式サイト) — SP 800-88(媒体のサニタイズに関するガイドライン)の発行元
- データ適正消去実行証明協議会(ADEC・公式サイト) — データ消去の技術基準と第三者証明制度の運営団体
- 環境省(公式サイト) — 小型家電リサイクル法など廃棄・再資源化の制度所管
- 個人情報保護委員会(公式サイト) — 個人データの安全管理・削除に関する考え方の公表元
ADECは第三者証明の制度を運営する団体であり、上記リンクは制度内容を確認するためのものです。当社が同協議会の認証を保有していることを示すものではありません。当社の対応状況はお電話・メールでお問い合わせください。
求められる基準から処理と証跡を逆算する電話・メールフォーム
「仕様書にNISTの水準が書かれているが、どの方式で満たせるのか分からない」「監査で必要な記載項目が指定されている」といった段階のご相談を多くいただきます。求められている基準と媒体の種類が分かれば、処理方式と残すべき記録を逆算してご案内できます。
ご相談・お見積りは無料です。お電話 0120-979-467(9:00〜18:00・年中無休)またはお問い合わせフォームからご連絡ください。
基準・ガイドラインについてのよくある質問
どの基準に沿っていますか?
総務省が公表しているガイドラインや、米国NISTのSP 800-88が示す考え方を踏まえて、破壊作業と記録の整備を行っています。基準の原文は各発行元の一次情報でご確認ください。
官公庁の要件に対応できますか?
官公庁・自治体からのご相談にも、仕様書の内容を確認しながら個別に対応しています。要件がございましたら事前にお知らせください。
当社の物理破壊はNIST SP 800-88のどの水準にあたりますか?
NIST SP 800-88では処理の水準がClear・Purge・Destroyの3つに整理されています。専用機による穿孔・せん断・破断という物理破壊は、このうちDestroy(物理的な破壊)の考え方に相当します。版数や条文の具体的な要求事項は、発行元の一次情報でご確認ください。
媒体ごとにどの方式を選べばよいか分かりません。
再利用するかどうかで大きく変わります。機器を再利用する場合は論理的な消去、再利用しない場合は物理破壊、という整理が基本です。本文の「媒体とリスクに応じた方式の選び方」の表をご覧いただき、判断に迷う場合はお電話・メールでご相談ください。
ADECの第三者証明制度との関係を教えてください。
ADEC(データ適正消去実行証明協議会)は、データ消去の技術基準づくりと第三者証明制度の普及を行う団体です。当ページはその制度の解説であり、当社の現時点での対応状況についてはお電話・メールでお問い合わせください。