この記事の結論
- 前提近年の機種は本体の記憶領域が暗号化されており、初期化は暗号鍵の破棄として設計されている
- 条件効くのは端末が正常に動作し、暗号化が有効な場合。故障機・古い機種は前提が崩れる
- 残るものSIMカード・SDカード・クラウド側のデータは、本体の初期化では消えない
- 社用端末処分したことを台数分の記録で説明する必要があるなら、破壊+証明書を検討
- 当社スマホ・タブレット・ガラケーの破壊は現在承っておりません
スマートフォンやタブレットを手放すとき、多くの方が最初に思い浮かべるのは「初期化しておけば大丈夫だろう」という判断です。実際、近年の端末は初期化がデータを読み出せない状態にする処理として機能するよう設計されているため、この判断は大きく外れてはいません。ただしそれはいくつかの前提が満たされている場合に限られます。
この記事は、初期化という操作が内部で何をしているのかを整理し、前提が崩れるのはどういう場面かを説明する解説記事です。なお当社では、スマートフォン・タブレット・ガラケー(携帯電話)の破壊は現在承っておりません。端末の処分の考え方はスマホ・タブレットの処分方法にもまとめています。
本記事の内容は一般的な仕組みの説明です。具体的な操作手順・画面表示・対応機能は機種およびOSのバージョンにより異なりますので、実際の操作にあたっては端末メーカー・通信事業者が公開している最新の案内をご確認ください。
スマホ・タブレットの初期化で消えるもの・残るもの
パソコンのHDDでは、初期化(フォーマット)はファイルの管理情報をリセットするだけで、記録面にはデータがそのまま残ります。この点はデータ消去と物理破壊の違い(初期化では消えない理由)で詳しく扱っています。ところがスマートフォン・タブレットの「すべての設定とコンテンツを消去」は、これとは異なる考え方で作られています。
iPhone・iPadの消去の考え方(暗号鍵の破棄)
iPhone・iPadは、本体のストレージに書き込まれるデータが端末内部の鍵で暗号化される構造になっており、初期化の操作はその鍵を破棄することによって、暗号化されたままのデータを復号できない状態にする——という考え方で設計されています。データそのものを1バイトずつ上書きするのではなく、読むための鍵を捨てることで読めなくする方式です。数百GBの領域を上書きする必要がないため、短時間で完了するのはこのためです。
この方式は、規格の世界では暗号化消去(Cryptographic Erase)と呼ばれ、NIST SP 800-88 では Purge(パージ)に分類される技法のひとつとして位置づけられています。水準の整理はデータ消去・HDD破壊の基準(Clear・Purge・Destroyの3水準)をご覧ください。ただし、この方式が有効に働くには鍵の管理機構が正常に動作していることが前提であり、対応の有無や挙動は機種・OSのバージョンにより異なります。
Androidの暗号化と初期化
Android端末も、一定のバージョン以降は本体ストレージの暗号化が標準的に有効となる方向で仕様が整理されてきました。そのうえで初期化(ファクトリーリセット)を行う流れになりますが、暗号化が有効かどうか、初期化時に鍵の破棄まで行われるかどうかは、機種・メーカー・OSのバージョンによって差があります。特に発売から年数が経っている端末や、メーカー独自のカスタマイズが入った端末では前提が揃わない場合があるため、機種名とOSのバージョンを確認したうえでメーカーの案内を参照することをおすすめします。
なお、初期化の前に端末を暗号化する設定が有効になっているかを確認する、という手順が案内されることがありますが、これも設定画面の場所や項目名が機種により異なります。本記事では具体的な操作手順の断定は避け、「暗号化が有効であることを確認したうえで初期化する」という原則だけをお伝えします。
SIMカード・SDカードは別扱い
ここが最も見落とされやすい点です。本体の初期化は、本体の記憶領域に対して行われる処理であり、差し込まれているSIMカードやmicroSDカードの中身までは対象になりません。SIMカードには電話番号に紐づく契約情報や、機種によっては連絡先が保存されていることがあります。microSDカードには写真・動画・書類などが大量に入っているのが普通です。
初期化の操作でSDカードの内容も消すかどうかを選べる機種もありますが、選択肢の有無は機種により異なるうえ、SDカードはフラッシュメモリの特性上、削除操作だけでは読み出せる状態が残ることがあります。取り外して別途処理するのが安全側の判断です。カード類そのものの処分方法はUSBメモリ・SDカードの処分方法をご覧ください。
クラウド側に残るデータ
端末を初期化しても、写真・連絡先・書類などがクラウドに同期されている場合、そのデータはクラウド側に残ります。これは端末の処分とは別の問題ですが、「端末を初期化したからデータは消えた」と考えると認識がずれます。逆に、アカウントをサインアウトしないまま端末だけ初期化すると、次の所有者が端末を有効化できない状態になることもあります。次章のとおり、アカウントの整理は初期化の前に行うのが基本です。
手放す前にやるべきこと
順番を間違えると後戻りが必要になります。大まかには「①バックアップ → ②アカウントのサインアウトと紛失対策機能の解除 → ③SIM・SDカードの取り外し → ④初期化」という流れになりますが、各操作の名称・場所は機種およびOSのバージョンにより異なります。以下は考え方の説明です。
各種アカウントのサインアウトと紛失対策機能の解除
スマートフォンには、紛失・盗難時に端末を遠隔からロックしたり位置を探したりする機能があり、これが有効なままだと、初期化した後も元の所有者のアカウントに端末が紐づいたままになる仕組みが働くことがあります(アクティベーションロック等と呼ばれる仕組みです)。この状態の端末は、下取り・買取に出しても受け取ってもらえない、あるいは減額されるといったことが起こります。
そのため、端末を手放す前に、紛失対策機能をオフにし、端末に紐づいた各種アカウントからサインアウトしておく必要があります。機能名・設定場所は機種およびOSのバージョンにより異なりますので、メーカーの案内に沿って進めてください。なお、物理破壊で処分する場合も、端末そのものは無くなっても、アカウント側に「この端末」が登録されたままになることがあります。可能であれば破壊を依頼する前に解除しておくことをおすすめします。
バックアップ
初期化は後から取り消せません。写真・連絡先・メッセージ・アプリのデータなど、必要なものは事前に別の場所へ退避してください。パソコン側へ退避する場合は、そのパソコンを後で処分するときに同じ問題が発生します。パソコンの処分とデータ消去についてはパソコンの処分方法とデータ消去(法人・個人別)で整理していますので、あわせてご確認ください。
SIM・SDカードの取り外し
初期化を行う前に、SIMカードとmicroSDカードを物理的に抜いておきます。抜いてから初期化すれば、「消したつもりで入ったままだった」という取り違えが起きません。取り出したカードの処分方法はUSBメモリ・SDカードの処分方法をご覧ください。カードは小さく紛失しやすいため、まとめて封筒に入れて管理しておくと確実です。
初期化の前に確認したいこと
初期化は取り消しができない操作です。実行前に、①必要なデータの退避が済んでいるか、②紛失対策機能とアカウントのサインアウトが済んでいるか、③SIM・SDカードを抜いたか、の3点をご確認ください。手順の詳細は機種・OSのバージョンにより異なりますので、メーカー・通信事業者の案内をご参照ください。
手放し方別のリスク比較
同じ「スマホを手放す」でも、手放し方によってデータ消去の責任が誰に残るかと処分の記録が残るかが変わります。この2点で整理すると、自分がどの手段を選ぶべきかが見えてきます。
| 手放し方 | データ消去の責任主体 | 証明書の有無 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 下取り・中古買取(店頭・キャリア) | 引き渡す前に利用者側で初期化しておく案内が一般的 | × 媒体ごとの破壊証明は想定されていない | 正常に動作する端末を、買い替えと同時に手放したい場合 |
| フリマアプリ・個人売買 | 出品者(利用者本人)にすべて残る | × なし | 業務データが一切入っておらず、動作確認ができる端末 |
| 自治体の小型家電回収 | 手放した本人(投入前に消しておく前提) | × なし | 個人利用で、処分の記録を誰かに示す必要がない場合 |
| 専門業者に物理破壊を委託(穿孔・せん断) | 作業者が破壊し、実施内容を記録して発行 | ◎ 媒体ごとの記録を載せた証明書を発行する業者を選べる | 社用端末、業務データや顧客情報が入っていた端末、故障機 |
上の3つは、いずれも初期化が正しく行われたかどうかを後から確認する手段が残らない点が共通しています。個人利用で記録が不要なら問題になりにくい一方、法人が社用端末を手放す場合は、監査や取引先からの照会に対して説明する材料が必要になります。手放し方の条件は事業者・自治体・時期により異なりますので、利用前に各窓口の最新の案内をご確認ください。
「責任主体」と「記録」の2軸で考える
比較表の2列目と3列目が、実務上いちばん効いてくる項目です。データ消去の責任が自分に残る手段を選んだ場合、初期化の前提(暗号化が有効・端末が正常に動作する)が満たされていたかどうかを、自分で確認・記録しておく必要があります。廃棄した機器からの情報漏えいがどのような経路で起きるかは廃棄したHDDからの情報漏えいはなぜ起きるかで整理しています。組織として漏えい対策を組み立てる場合の考え方は情報漏えい対策としての記憶媒体の破壊をご覧ください。
初期化だけでは不安が残るケース
冒頭で述べた「前提」が崩れる場面を、3つに分けて説明します。いずれも、初期化という操作そのものが悪いのではなく、初期化が想定している条件が揃っていない状態です。
業務で使った社用端末
社用スマートフォンには、顧客の連絡先、業務チャットの履歴、社内システムへのアクセス権、名刺アプリの取り込みデータなどが蓄積されています。初期化が成功していれば読み出せない状態になりますが、問題は「初期化が成功したこと」を誰がどう確認したかです。返却された端末を担当者が一台ずつ初期化する運用では、台数が増えるほど作業漏れが起きます。ISMSやプライバシーマークの運用対象になっている情報資産であれば、処分の記録を求められるのが通常です。監査で必要になる証跡の考え方(当社の証明書はパソコンとHDD・SSDが対象です)は記憶装置物理破壊完了証明書の発行にまとめています。
故障して初期化できない端末
画面が割れて操作を受け付けない、電源が入らない、水没した、初期化の途中でフリーズする——こうした端末では、そもそも初期化の操作を最後まで実行できません。動かないから安全、ということにはならず、基板上のメモリチップにはデータが残ったままです。同じ論点はHDDでも生じており、故障した媒体の扱いは壊れて動かないHDDの処分(認識しなくても物理破壊)で解説しています。故障機については、記録チップごと壊す物理破壊が現実的な選択肢になります。
基板直付けストレージ(eMMC・UFS)の特性
スマートフォン・タブレットの内蔵ストレージは、eMMCやUFSといった規格のフラッシュメモリが、基板に直接はんだ付けされている構造が一般的です。パソコンのようにドライブを取り外して別の機械につなぎ、消去ソフトで上書きする、という扱いが想定されていません。
さらにフラッシュメモリには、書き込み位置を分散させるウェアレベリングという仕組みや、利用者からは見えない予備領域があり、上書き方式の消去では届かない領域が残りうるという特性があります。この点はSSDと共通で、データ消去ソフトの限界(SSD・故障HDDのリスク)で詳しく扱っています。だからこそ、スマートフォンでは上書きではなく暗号鍵の破棄という設計が採られているわけですが、その鍵の管理機構が動かない端末では、この設計も機能しません。基板そのものを破壊するという手段が残るのは、こうした事情によります。
法人の社用スマホをまとめて処分する場合
個人の1台と、法人の数十台では、必要な作業が変わります。技術的な処理内容は同じでも、台数分の管理と記録という工程が加わるためです。
台数管理と証跡
まず、回収した端末の台数と個体を確定させます。IT資産管理台帳に登録されている端末と、実際に回収できた端末を突き合わせ、差分(返却されていない端末)を洗い出す作業です。この突合が済んでいないと、処分の記録を作っても台帳と合いません。処分を委託する場合は、端末ごとのシリアル番号・処理方式・作業日時などを記載した証明書を受け取れるかを、委託先に事前に確認しておくと台帳との突合がしやすくなります。監査で求められる証跡の整え方はISMS・Pマーク・マイナンバー対応の証跡をご覧ください。
MDMの解除
社用端末はMDM(モバイルデバイス管理)で一元管理されていることが多く、管理下に置かれたままの端末は、初期化しても再び管理プロファイルが適用される、あるいは第三者が利用できない状態になることがあります。処分にあたっては、管理コンソール側で対象端末の登録を解除しておく必要があります。物理破壊を依頼する場合も、破壊してしまうと管理コンソール側から端末を操作できなくなるため、解除は破壊前に済ませておくのが確実です。解除の手順は導入しているMDM製品により異なります。
回収から破壊までの記録を途切れさせない
各拠点から端末を集約し、まとめて処分するまでの間に、いつ・どこに・何台あったかの記録が途切れると、後から説明ができなくなります。引き渡しから破壊完了までの記録を連続させるには、作業への立会いや、破壊後の状態を写した写真付きの記録が役立ちます。委託先を選ぶ際は、こうした記録を残せるかどうかもあわせて確認しておくとよいでしょう。
物理破壊を選ぶ場合(当社では承っておりません)
初期化ではなく物理破壊を選ぶ判断になった場合は、スマートフォン・タブレット・ガラケー(携帯電話)の破壊に対応している専門業者へ相談することになります。
現在お受けしているもの
当社が承っているのは、ノートパソコン・デスクトップPCと、取り外し済みのHDD・SSD単体です。料金は媒体・方式別 料金表、ご依頼の流れはご依頼方法をご覧ください(法人・団体・官公庁のお客様専用です)。
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記憶媒体の処分にまつわる論点は、媒体の種類ごとに事情が異なります。処分方法の全体像・費用の考え方などはHDD処分のお役立ちガイド(記事一覧)にまとめていますので、判断に迷う点があればあわせてご覧ください。
スマホ・タブレットのデータ消去についてのよくある質問
スマホやタブレットは初期化すればデータは消えますか?
近年の機種は本体の記憶領域が暗号化されており、初期化(すべての設定とコンテンツを消去する操作)は暗号鍵を破棄することでデータを読み出せない状態にする設計になっています。ただし効果があるのは端末が正常に動作し、暗号化が有効になっている場合です。古い機種や暗号化されていない機種、初期化操作が完了しない故障機では、この前提が崩れます。仕様は機種・OSのバージョンにより異なりますので、メーカーの案内をご確認ください。
初期化できない故障したスマホはどうすればよいですか?
画面が割れて操作できない、電源が入らない、初期化の途中で止まるといった端末は、初期化そのものが実行できません。この場合は基板ごと物理破壊する方法が選択肢になります。なお、当社ではスマートフォン・タブレットの破壊は現在承っておりません。
SIMカードやSDカードはどう処分すればよいですか?
本体の初期化ではSIMカードやSDカードの中身は消えません。取り外して別に処理する必要があります。処分方法はUSBメモリ・SDカードの処分方法をご覧ください。SIMカードの取り扱いについては契約中の通信事業者の案内もあわせてご確認ください。
社用スマホをまとめて処分するとき、何を記録しておけばよいですか?
回収した端末をIT資産管理台帳と突き合わせ、端末ごとのシリアル番号・処理方式・処理日時を記録しておくと、監査や取引先からの照会に説明しやすくなります。処分を委託する場合は、こうした記載のある証明書を受け取れるかを事前に確認してください。
この記事の監修
この記事の内容は、当社の破壊作業責任者が確認しています。監修を担当する立場と担当領域、監修の範囲は会社概要(監修者・作業責任者)に掲載しています。記載内容についてのお問い合わせも承ります。